#深夜の真剣文字書き60分一本勝負 1
◇テーマ:七夕
『恋う君』(オリジナル/現代/一人語り)
7月7日。突然の別れののちの無言の再会からひとめぐり。
あの日まみえた君の姿を、ひとり夜の縁側で思い起こす。
透き通った白い肌、柔らかに引かれた紅、閉じられた睫毛。
色とりどりの花に囲まれてなお君は美しかった。
今は天に輝く君を恋うばかりの私に、今夜ばかりは牽牛も力を貸してはくれまいか。

◇テーマ:宵闇に紛れて、秘密の睦言
『週末の夜』(オリジナル/現代)
「大丈夫」と君が呟く。
そんなわけがあるものか。それが証拠に君は視線をわずかに逸らしている。意図的に、だがそれとわかるように。
「大丈夫、よ」
気づいているのだろう? 君も。
胸の内に懸命に潜めながらも試すような甘美な一瞬。
そうして僕らは背徳を繰り返す。
「大丈夫」と誰かに言いわけ続けて。

◇テーマ:雪が降れば良いのに
『雪のぞみ』(オリジナル/セルフ二次創作/一人語り)
雪は好きだ。貴賎なく総てに舞い降りて、無垢一色、形すらも無に還す。
静謐で気高く、身に纏った陰をも覆い消し去るそれは、やがて地と天の境界を繋ぎ、神の世界に舞い込んだかのような錯覚を呼び起こす。
そのときばかりは、俺も己の業を忘れ、彼女の心根に近付けた悦びを素直に抱くことができるのだ。

◇テーマ:零れる
『命のこえ』(オリジナル/モノローグ的/時代設定なし)
ぱた、ぱた、ぱたとそれは零れる。
押さえようと当てた手のひら、骨ばった指と指の隙間から。赤く鮮やかに、容赦なく、無惨にも。
ぽと、ぽと、ぽととそれは零れる。
抑えようと閉じた瞼の隙間から。虹色に煌めき、溢れ出す、とめどなく。
それはどちらも生の現れ、やがて訪れる瞬間まで続く慟哭に等しい。

◇テーマ:まるで大きな赤ん坊
『御前様』(オリジナル/現代/恋愛)
世話が焼ける、とこの度に思う。
煙草臭いスーツを剥ぎ、布団をかけて、枕元に水まで用意するのだから。
でも、とも思う。
酒に呑まれて赤らんだ目尻や、よだれ垂らしてぐずぐずの寝顔、ふと求め握られた手の温もりなんかが、まるきり無垢で無力で愛おしいんだもの。

inserted by FC2 system