HIROKANA-ss (しん) −A childhood friend−
 私立誠和(せいわ)高等学校、放課後の四階化学室。
 暮れなずむ校庭を開け放った窓から見つめ、石沼(いしぬま) 小歩(さほ)は待ちぼうけの溜息をひとつついた。
 所属する弓道部の活動時間は既に終わっている。にも関わらず敷地の西端に位置する弓道場から、校舎の東角にあるここまでわざわざ足を運んだのには当然理由があった。

『今日、部活終わったらウチの部室で待ってろ』

 同じ病院で生まれた時からの腐れ縁――もう16年にもなる――の宝積(ほずみ)太陽(たいよう)が、昼休みの廊下で突然押しつけてきた約束。またいつもの思いつきが始まったかと、部活仲間の亜弥(あや)との予定を優先させるべく断るつもりだったのだが、「ぜってー先に帰んな。絶対来いよ」といつになく熱心な言いように思わずうんと頷いてしまったのだった。
 しかし、と黒板の上の時計を見やる。針は既に6時半を回っているというのに、当の本人が現れる気配が一向にない。いったいどういうつもりよと頬を膨らまし、それからひとつ息をつくと再び窓の外に目をやる。

 カシャッ。

 そのときだ、静かな空気の中突然響いた音にびくりと振り返る。見やると教室の戸口に青年が一人立っていた。
「やあ小歩ちゃん。こんな時間に珍しいね」
 年季の入ったインスタントカメラを首から提げた彼――太陽が身を置く写真部の部長で二年の森嶋(もりしま)佳文(よしふみ)は、柔和な笑みを見せてこちらへ歩み寄ってきた。
「すいません、勝手に入っちゃって。先輩こそまだ残ってたんですか?」
「ああ。部員が一人まだ上がってこないんでね」
 そうして並んで立つと同じように窓の外に視線を移す。まだ夏の余韻の残る校庭では、最後まで残っていた野球部がそろそろレーキを引き始めようかというところだった。
「来月の例会に出品する作品を撮りにいってるはずだけど、太陽のやつ随分熱心だな」
「すいません、アイツ自分勝手で。スイッチ入ったらとことんまでやらないと気がすまない性質ですから」
「いや、小歩ちゃんが謝ることじゃないよ。類まれなる集中力、それは陸上部時代の賜物だろうし、僕も見習わせてもらわないとね」
 出てきた印画紙をひらひらと振りながら佳文が笑う。それは決して悪意なく自然に出た言葉だったのだろう、小歩は何か言葉を返そうと思ったが、幼馴染に降りかかった苦い出来事を思い起こすと、軽々しい戯言で返すことなど到底できなかった。
 そう、あの事故さえなければ……今頃彼は、写真を『撮る側』ではなく確実に『撮られる側』にいたはずなのだから。
 太陽は小さい頃から陸上の才覚目覚ましい少年だった。中学に上がると、中距離走者としていずれは高総体や国体での活躍を期待され、常にユースの強化選手にも選ばれていた。だが中学三年の初夏、大会直前に交通事故に遭って大怪我をしてしまい、幸い後遺症なく完治はしたものの、それ以来陸上の世界から遠ざかってしまったのだ。
「あ……すまない。気に障ったかな」
 沈黙を静かな憤慨だと感じたのだろうか、佳文が申し訳なさそうに言う。いいえとかぶりを振ると、ほっとしたような彼の笑みに誘われて自然に口が開いた。
「事故の後、退院してからほんの少しの間だけですけど、アイツも陸上部に残って記録係をやってた時期があったんです」
「記録係?」
「はい。フリーカメラマンの叔父さんの影響で、昔から写真撮るのが第二の趣味だったんで。その頃はたぶんまだ陸上に未練があったんだと思いますけど、現実的には選手として復帰の場は望めなかったし、後輩の指導にしたって内心は複雑だったと思います」
 部員たちの成果をファインダー越しに見、記録をつけ、そうして現状を再認する毎日。華々しい活躍はもはや過去、否応なく舞台から引きずり下ろされたやりきれなさ、情熱の向かう先を突然奪われた喪失感。そんな複雑な感情を湛えてカメラを構える姿を見ながら、なんだか自分も同じように胸が苦しくなったものだった。
「結局最後には陸上部を辞めたんですけど、でもそのきっかけって実は佳文先輩だったんですよ」
「僕が?」
 心底不思議そうな顔に、にこりと笑って説明する。
「だってアイツ、先輩を追って誠和に入ったも同然ですから。まだ16年しか生きてないくせに、アイツ本気で感動する写真に出会ったのは人生でたった2度しかないっていうんです。1度目は、アイツのお父さんが撮った自分が赤ん坊の時の写真。で2度目は、記録係じゃ埒が明かないって、陸上から完全に離れようかどうしようか決めあぐねてた時、たまたま芸術祭の巡回展で見た先輩の写真だったって」
「巡回展? ああ、去年の冬のかな」
「市民文化会館の前で看板を見て、病院の検査に付き合った帰りにふらっと入ったんですけど……あたし写真は素人だけど、先輩の作品だけは他とは違うって思いました」
 朝焼けの砂浜、光輝く波打ち際を手を繋いで歩く老婆と男の子の後姿。画の手前からまっすぐに伸びていく二人の足跡が非常に印象的だった。
「タイトルは確か『めぐり』って」
「そうだね。母の実家近くの浜辺で撮ったんだ」
「アイツ、先輩の写真の前で何時間も立ちっぱなしだったんですよ。まるで睨むみたいにパネルをじっと見つめて。その後スタッフさんに詰め寄ったんです。『この人、どこに住んでるんですか』って。あの時は本気で自宅に押しかけるつもりだったみたいで、その場で土下座しかねない勢いだったもんだから、スタッフさんも誠和(ここ)の生徒だってことだけ教えてくれたんです」
「そうか。そんなことがあったなんて」
「あの時から先輩はアイツの目標になったんです。それまでみたいに、過去と今を比べながら恨みがましくレンズを向けるんじゃなくて、目の前にあるものにひたすら向き合わなきゃって気付いたみたいで。そのためには今のままじゃダメだって言って、次の日には陸上部に退部届を出すわ、入試まで間もないのに陸上で推薦希望してたトコから志望校まで変えるわで、本当に大変だったんですよ」
 へえ、と感嘆と共に呟いて佳文が目を丸くする。
「そこまで意識してもらえていたなんて驚いたな」
 なんだかこそばゆいけど光栄だよ、と続ける。だが照れたような表情がすぐに真顔に戻った。
「でも、僕だって彼には同じように影響を受けているよ」
「え? 何度も作品展で賞を貰ってる先輩が、ですか?」
 もちろん、と言いながら近くにあった椅子を引き寄せて腰を下ろす。
「そうだな、例を挙げれば……この間の学園祭で部活の写真を展示していたけれど、その中に夕暮れ時の道場で一人弓を構えた誰かさん(、、、、)を写したものがあったろう?」
 校内各部の活動記録兼写真部の作品展として、この化学室を会場に飾られていたパネルの数々。その中に自分がいるとクラスメイトから聞いたとき、小歩は持っていた家庭科部特製のクレープをあやうく落としそうになった。それを思い出して思わず顔が真っ赤になる。
「あ、あ、あれはホントにびっくりして。事前に何の断りもなしだったし、あんまり恥ずかしかったんで、あの後アイツの首絞めてやりましたけど」
 ぎゅーっと、と両手を掲げると、佳文は楽しそうに笑った。
「僕にはあれがすごい一枚だと思えたよ。まっすぐに的を狙う鋭い視線。緊張感を匂わす頬に流れた汗の筋と夕暮れの空気。言葉での補足なんて必要のない臨場感と迫力が、あの画に凝縮されていたと思う。言い方は好くないけど、同好の士としては気に障る、いいや正直嫉妬させられた作品だった」
「そんな、褒めすぎですよ」
「いやこの感想は決して誇張ではないよ。あの空間を切り取ることができるセンス、それは彼でこそのものだろうからね。そして思ったんだ。彼はきっと素晴らしい写真家になる、おそらくは……」
 かすかに苦さを滲ませて佳文が語末を濁す。いつも穏やかに笑う彼からこぼれた負の感情に少しどきりとした。
「それから、これは僕の勝手な思い込みかも知れないけれど、あの写真からは君の心の内も覗えたような気がするんだ」
「え? あたしの、ですか」
「そう。上手く言い表せないけど、『いつか、きっと』っていう強い思い、かな?」
 普通写真からそこまでを読み取れるものなのだろうか。いいや、彼の感受性が群を抜いているというべきなのだろう。小歩は誰にも語ったことのなかった本心を言い当てられて心底驚いた。そして同時に、太陽本人には伝えていない、秘めた気持ちを聞いてもらえるかもしれないとも思った。
「あの、先輩」
「なんだい?」
「あたし普通の人より小さく生まれて、太陽とはそのときに隣同士の保育器だったんです」
 突然の昔語りに佳文は最初驚いたようだったが、すぐにいつもの表情に戻って相槌を打ってくれた。
「君たちはそんなに昔からの縁だったんだね」
「そうなんです。でも同じ未熟児で生まれたのに、なんだかんだ言ってもアイツは男の子だから成長が早くて。あたしは病気がちで身体もちいさいままだったんで、ずっと傍にいてくれて、何かあればいちいち律儀に止まって待っててくれるアイツに申し訳なくて」
 自分につけられた名前の由来――小さきとも、しっかりとひとつひとつの歩みを――それを理解し見守ってくれているような彼の行動は、その名前の示すとおり、やさしくあたたかく包み込んでくれる本当の陽光のように自分には思えた。
「あたしはアイツみたいに飛び抜けた才能に恵まれてるわけじゃないから、ひとつのことを精一杯続けていくしかできなくて。その点では弓道って体格も年齢も、男女も関係ない世界ですし、自分が諦めない限りはずっと続けていけるじゃないですか。きちんと鍛錬すれば身体も丈夫になるし。だから中学の時に始めたんです」
 おかげで今では大分体力と筋力が付いたんですよ、と両腕にまだ小さな力瘤を作ってみせる。
「陸上のことが吹っ切れた後のアイツは本当に生き生きしてて。本物の真夏の太陽みたいにぎらぎらして強くて、直接見れないぐらいまぶしい」
 並べるかもしれないと思った瞬間、あっという間に目標を見つけ先んじていくその姿、そしてその背中ばかりをいつも追いかけることしかできない自分に、ほんの少しの痛みが胸に湧き上がる。
「だからこそ足手まといになりたくないなとも思うんです。自分のことを自分でしっかりできるようになれば、アイツを待たせることもないし、余計な心配をかけずに済むから。折角たどりついた大好きなことに集中できるようにって……結構、幼馴染なりに気を遣ってるんですよ」
 そうかと答えながら、佳文は自分がまるで道化のようだと思った。結局表現の仕方は違えど、これでは双方から惚気話を聞かされているようなものだ。
 あまりに近すぎてそれ(、、)と気づかない不幸、といったところかな。
 そうしてちらと視線を手の内に流し、先ほど撮った『作品』の出来栄えを確認すると、途端に湧き上がったいたずら心に口許を緩ませる。
「小歩ちゃん」
「はい?」
「僕はさっき、彼に嫉妬を覚えたと言ったけれど……それはあの一枚、あの被写体だからこそ、と言えなくもない気がするんだ」
 え? と無防備な表情がこちらを向く。それが一番、自分には堪えるというのに。
「本当に、悔しい限りだよ」
 そうして差し出す裏返しにしたインスタントカメラの印画紙。首を傾げてそれを受け取る小歩に、佳文は少しだけ苦い表情を浮かべて立ち上がった。
「さて、どうやらまだ時間がかかりそうだから、僕は先に帰ることにするよ」
「え、あ、はい」
「じゃ、後はよろしく」
 短く言って右手を少し上げて挨拶し、ゆっくりと化学室から廊下へ出る。すると近くの階段からばたばたと駆け上がってくる靴音が聞こえてきた。来たな、と入り口から数歩出たところで待ち構えていると、角を折れて走ってきた必死の形相と出くわす。すれ違いざま「やっと終わったか」と声をかけたが、相手は自分に目もくれずそのままの勢いでドアにぶつかって止まった。
「小歩、いっか?!」
「太陽!」
 使い古したスポーツバッグを担いで全力ダッシュしてきたのだろう、ぜいぜいと荒い息をつきながらも、お目当てのものを見つけた彼の表情が緩む。その瞬間むっとして、佳文はその横顔に改めて憤慨を含めた声をかけた。
「太陽」
 そこでやっと気づいたのか、こちらを向いた顔に「しまった」と別の汗が浮いたようだった。
「あ、先輩」
「『あ、先輩』じゃない。約束してた活動時間はとっくに過ぎてる。今何時だと思ってるんだ」
「あー……迷惑かけて、ホントすんませんっした!」
 体育会系に長く浸かっていたせいだろうか。めいっぱいの反省の意を込めて下げられた短髪のつむじを見つめながら、コレがこいつの憎めないところなんだよなと小さくため息をつく。そうして腰に手を当てると自らも思い出し、ポケットの中の物を彼に差し出した。
「僕は先に帰るから、化学室の戸締りと顧問への報告をちゃんとしてくれよ」
「はい」
「それから」
「なんスか?」
「……いいや、なんでもない」
 踵を返し一歩を踏み出しながら佳文はかすかに含んだ笑みを見せ、それから「また明日」と残して去っていった。今まで見たことのない彼の表情にひととき呆然とし、太陽は思い出したように「お疲れっした!」と遠ざかってゆくその背中を見送る。
「ちょっと、太陽!」
 が、室内から放たれた怒りの声ではっと我に返った。やべぇと内心呟いてすぐさまそちらに駆け寄る。
「呼びつけておいて、なんなのこれは! ホントは亜矢と予定があったのに、そっちをキャンセルしてわざわざ来てやったのにっ」
 頬を膨らませた小歩の仁王立ちに、咄嗟に両手を擦り合わせる。
「悪ィ悪ィ。撮影が終わってここに来る途中で、世界史の柴田に捕まっちまってよ。ほら、この間のテスト、俺赤だったし」
「へぇぇ、それで1時間以上も待たせるわけ」
「まぁまぁそう怒んなって。帰りに茶々亭のお好み焼きおごるからさぁ。許してよぉ小歩ちゃぁん」
 腕組み半眼に向かって彼女の大好物を引き合いに出し必死にへつらう太陽だったが、その右手の指に挟まれていたものに気づいてしめたとばかりに話題を変える。
「あ、あのさ」
「なによ」
「それ、手に持ってるのなんだよ」
 はぐらかそうったってそうはいくもんか。絶対に海老豚玉の大盛りをおごらせてやるから、などと考えながら、小歩も佳文から渡された印画紙にを改めて目を移した。インスタントカメラのそれは既にその色をくっきりと現しており、映し出されていたものに思わず「えっ」と小さく声が漏れる。
「なに、これ」
 どれどれ、と興味を惹かれた太陽も手元に顔を寄せて覗き込む。が直後「ちょっと貸せ」と半ば強引に写真を奪い取った。ぼんやりと窓の外を見やる幼馴染の横顔に、沈みかけた夕陽。叙情的で絵画のような完成度の高い一枚に瞬間息を呑む。
「これ、誰が」
「さっき先輩がくれたの。アンタが来るまで大分時間があったから。でもなんで……」
「先輩が?」
 一度廊下の方を振り返り、再び小歩を向いて不機嫌極まりない顔を見せつけてから、太陽は湧き上がった感情にまかせて印画紙をぐしゃっと握りつぶした。
「な、ちょっと、なにすんのよ!」
「帰んぞ」
 ぶすりと頬を膨らませ、バッグを担ぎ直して歩き出す。
「待ってよ、どうしたの、太陽ってば!」
 ぱたぱたと追ってくる足音を背後に聞きながら、太陽は内心穏やかではなくなっていた。この一枚には、インスタントカメラを用いたとは思えない程の目を見張る技術が凝縮されている。流石は自分が目標と定めた人間というべきか、森嶋佳文という若き写真家の才能を改めて見せ付けられた気がした。
 そして何よりも、印画から覗える撮影者の思い――それはあからさまな自分への挑発だった。
「あの人、やっぱりすげぇ」
 まずは正直な賛美が漏れる。が同時に激しく荒れ狂う感情が胸を満たした。天賦の才そして高い技量に対する嫉妬、さらにはある小さな可能性をも邪推して、頭を掻きむしりたい衝動に駆られる。
「待ってよ、太陽!」
 ようやく隣に追いつき、わけがわからないと言ったふうに怒った小歩の顔を見やり、腹の底に滾る悔しさにぎり、と奥歯を噛む。
 学園祭に出品した写真で、自分はこの内にある気持ちをしっかりと『公言』できたものと自負していた。
『俺は絶対に写真家になる。そうすれば……こいつをずっと見つめ続けていられる』
 幼い頃から傍に、そして時にファインダー越しに見守り続けてきた対象。小さな妹の成長を見守る兄のような気持ちが、いつしか別なものに変貌していたのだとはっきり気付いたあの日。たとえ本人には伝わらなくとも――こいつは、案外そっち方面(、、、、、) に鈍感だから――自分にとってあの作品はひとつの『区切り』だったのだ。
 過去をすべて振り払った、今の自分に撮りうる最高の一枚。そして次の段階へ踏み出す始めの一歩。しかしその自信をもあっさりと覆し、隙あらばとって代わろうと画策する人間がこんな身近にいようなどとは思ってもみなかった。
 最大にして最強の目標。いいや、もはや彼は目標ではなく好敵手(ライバル) だ。
「負けてたまっか」
 鍛えなおしだ、と自分自身に言い聞かせる。気合を入れなおすために自分で両頬をぱしりと張ると、絶対に越えなければという対抗心がより一層燃え上がった。
「アンタが何に負けるっていうのよ。それに、用事って一体なんだったの?」
 人生のひとつの山を越えたと浮かれていたらしい己の青さを痛感し、印画紙を握りつぶした手にさらに力を込めて律する。
「別に。何でもねぇ」
 言えっかよ、こんな情けねぇザマで。
 だから……悔しいが、今はまだ幼馴染()のままでも仕方がない。想いを口にできるほどの資格は、まだ備わってはいない。
「なによそれ。分かるように説明しなさいよ、このバカ太陽っ!」
 傍らから次々と浴びせかけられる怒声。まぁ、呼び出された上に待ちぼうけで結局何もなしじゃ無理もねぇよな、と他人事のように彼女に同情し、それからほんの少しの切なさと寂しさとを噛み締めて小さな苦笑とつぶやきを漏らした。
「あんなあからさまなのに、気づかねぇっつーのもどうよ」

 この鈍感娘。バカ小歩。

 口にすれば絶対に拳が飛んでくるであろう最後の一言を飲み込み、太陽は握っていた印画紙をポケットに突っ込むと、とりあえずの埋め合わせをするべく懐具合の確認に考えを移した。


 いつか絶対に掴んでやる、と傍らの小さな白い手に一瞬視線を走らせて。


400字詰め原稿用紙換算 23枚

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