HIROKANA (たん) −A sweet trap, then love which falls−
朝起きて、すぐに届いた携帯メール
でも読まずに我慢よ、我慢。

ほんの少しの意地悪と、ほんの少しの優越感
それらがひととき心を満たす

焦燥や劣等感に苛まれるのはいつもあたし
いつもそれじゃあ癪じゃない?
だから今日ぐらいは、あたしが余裕綽々といきたいの。

返事が来ないって青くなって
やきもきしてるのを想像して
こっちはにんまりほくそ笑む。

自信のない自分の賭けに、後ろめたさを感じながらも
そのくせどこかで自負がある。
天秤にかけられた相反する二つの想い
どっちに揺らぐかはあなた次第。
信じていてもいいわよね。

……
……

1分たった。
途端に天秤が揺らぎ始める。
不安が嵐のように巻き起こって心を乱す。

『なんで反応ないのよ』
『返事がないのを気にも留めないわけ?』
『それとも逆読みして余裕かましてるとか?』
『それでもって面白がってこっちの出方を伺ってるとか』

どれをとっても、ありうるわ
知らないふりして、そういう駆け引きに滅法強いんだから。

余裕綽々で構えるつもりが、気がつけばやきもきしてるのは自分。
百面相して、うろうろ歩きまわって、落ち着きがないのはあたしの方。


突然着信音が鳴った。
どうやらメールが届いたらしい。


とりあえず、よ!とりあえず……
大事な用件だとしたら、放っておいたら後が大変だし。

そうやって自分にいい訳。
ほんの少し自己嫌悪に陥りながらメールを開く。



  『今日は誕生日だったよね。おめでとう。
   こんな風に、たぶん誰より最初にお祝いを言えるって、なんだか照れくさいけど嬉しいよ。
   プレゼント代わりってわけじゃないけど、これから海に行かない?
   折角のいい天気だし、たまには遠出もいいかなと思ってさ』



反射的にじわっと涙が滲む。
一人で意地を張って挑みかかって、
そして勝手に自分を卑下して意地悪して。

馬鹿だわ、あたし。

携帯を左手に持ち替えて、今までにない速さで文章を打ち込む。



   『だったらあと30分で迎えに来てよね。のろのろしてたら日が暮れちゃうんだから!』



精一杯の抵抗。
探りを入れられたのはむしろあたしの方なのかも。
施された罠に抗えないってわかってるけど
せめて最後に、無駄なあがきぐらいさせてよ。


すんなり『まいりました』なんて、あたしの性に合わないわ。


400字詰め原稿用紙換算 5枚


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